森の書庫

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エクソシストとの対話 /島村 菜津

☆☆☆☆

聖なる人の足跡をたどって

著者はイタリアに強いノンフィクションライターで、関連書を多数出版しているようです。
本書は、エクソシストという職業を追ったノンフィクションの文庫版になります。
元々ハードカバーだったものを図書館で興味本位で手に取ったのが評者との初めての出会いでしたが、その後何度も借りて読み返すことになりました。
手に入れたくとも既に絶版で困っていたのですが、文庫化されたことを知って喜び勇んで購入しました。
文庫版では、前後の繋がりの不明瞭だった部分が訂正され、さらには登場人物たちのその後や近年のエクソシストの制度面の変化などが加筆されていて、ハードカバーを読んでいた私のような読者にとっても読み応えがありました。

著者はエクソシストに興味を抱き、「聖なる階段」という名を持つ小さな教会に著名だったカンディド神父を訪ねますが、4ヶ月前にこの世を去ったことを知らされます。
しかしあきらめず、そこから数年にも及ぶ長い時間をかけて取材を続けました。
結果、カンディド神父と縁のあった多くの人々、同僚の神父から実際にエクソシストを受けた人々まで会いに行き、話を聞くことに成功していました。
その数は膨大で、神父たちの内面、悪魔祓いを受けた人々の生い立ちや背景などにもかなり踏み込んで書かれていて、更には門外不出といわれる悪魔祓いの儀式に立ち会いを許されるなど、イタリア人に信頼された著者の誠実で温かみのある人柄が伺えました。

神父たちについてはエクソシストのオカルト的な面よりもこの職業を通じて聖なる道を歩み続けた生き方に強く感銘を受けました。

終盤に筆者は神父が30年もの間通っていたという、難病で歩行のできない女性リナへのインタビューに成功しています。

そこでは神父は奇跡の癒しも起こしてはいないし、悪魔を祓ったわけでもない。

ただ孤独な彼女のそばに寄り添うためだけに、ただそのためだけに30年もの間通い続けたと聞き強い衝撃を受けています。
その女性は次のように語りました。

「あの人はたぶん世界一偉大なエクソシストだった。
 だけど有名であることに何の関心もなく、それはそれは謙虚な人だった。
 あの人のカリスマや名声が私を癒したんじゃない。
 あの人は何もかもが灰色だった私のところに、
 黙ってただ通い続けてくれることで私を危機から救ってくれたの」

本書を読んだことがきっかけでエクソシストという存在に興味を持ち、翻訳書なども含め国内で発売されているものをいくつか手に取りましたが本書を越えるものには出会えませんでした。

本書は万人受けするものではないのかもしれません。
でもたとえエクソシストに興味がなくても、神父達の持つ徳性のようなもの、すなわち人に優しく、辛いことをものともせず、好んで人の前に立たず、慈愛、無執着、謙譲を貫くという聖なる生き様は、人間の持つ尊い部分に触れさせてくれると思います。
目の前を過ぎ去って行く数多くの本の中で、本書は長く手元に置いて繰り返し読み返してきた大切な本の1つです。