森の書庫

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病気を治せない医者 現代医学の正体に迫る /岡部 哲郎

現代医学の現状と中医学のススメ

著者の岡部哲郎氏(1948ー)は東西両医学に精通した医師で、現在は開業して自由診療で治療を行なっています。

本書は著者の経験を踏まえて、真の医学のありようを提案したものです。

 

著者は高校時代に難病を患ったことから、治療法を研究開発するために東大の医学部に入りました。

卒業後は内科系の研究室に所属し、癌治療の研究に没頭しました。

免疫系を賦活させて白血球を産出するホルモン様物質を突き止めたり、癌細胞と結合する抗体を作り出すなど、次々と実績を上げていきました。

漢方との出会いはこの頃で、抗癌作用を持つ物質を漢方薬に求めて、台湾の中医師の研究所を訪れます。

しかし目の前で様々な難病が改善していく様に驚愕し、弟子入りして熟練の技を学びました。 その後は東大病院の総合内科にある漢方外来で治療にあたり、2014年からは銀座で開業して今に至ります(一方で漢方外来は閉鎖となり、技術は継承されなかったようです)。

 

本書は東西両医学を深く研究してきた著者が、両医学の長所と短所を踏まえた上で、最良の選択を考察したものです。

前半では、西洋医学への批判を中心とした論が展開します。 無駄な検査、安易な手術、高血圧や高脂血症などの健康な人に薬を処方する愚などを指摘していました。

特に著者は研究に従事していたことから、データを恣意的に用いてミスリードする統計処理の欺瞞について丁寧に解説していて説得力がありました。

後半は著者が実践する中国伝統医学を用いた治療が紹介されていました。

東洋医学は西洋医学とは異なる観点から人体を眺めるので難病にも対処できる可能性があり、治療の幅が広がります。

メニエール病潰瘍性大腸炎膠原病のシェーグレン症候群、緑内障肺気腫などの症例が紹介されていました。

また東洋医学といっても、中医学と日本漢方の違いがあることも言及していました。

著者によれば、日本漢方の「生薬や方剤の知識が不十分な状態で漢方薬が処方されていること」、「傷寒論を元にした大雑把な診断体系しかない点」などを問題視していました。

終章では食養生と地続きにある漢方の思想に触れながら、西洋、東洋の両医学を統合した医療の可能性に言及して筆を置いていました。
内容が専門分野にも及んでいましたが、読み応えのある好著でした。