森の書庫

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ヴィジョン―次元のベールを超えて見た地球の未来 /トム ブラウン・ジュニア

老インディアンの教え

著者のトム・ブラウン・ジュニア(1950ー)は幼少時に古老のインディアンから伝統部族の教えを学び、アメリカでサバイバルスクールを運営しています。
本書は著者の半生と、古老から学んだ智恵を説明していました。

著者は7歳の時にリパン・アパッチ族の「忍び寄りのウルフ」と呼ばれるインディアン「グランドファーザー」と出会いました。
グランドファーザーは部族の戦士で、同時にシャーマン、ヒーラーでもありました。
北米大陸を放浪して様々な部族と交流し、絶対なる真理を求めていました。
そして彼の孫リックと共に10年に亘って多くの教えを受けます。
それはサバイバル、獲物の追跡法、霊的な世界のことなど多岐に及んでいました。
訓練はリックと三人で森の中で行なわれ、自然の中で生き残る技、霊的な啓示を受ける術、精霊との交流方法などが教授されました。

本書はグランドファーザから受けた教えをまとめたものです。
20の章で分けられ、各テーマごとにグランドファーザーと過ごしたエピソードを取り上げて啓示的な考察がなされていました。
それらは美しい文章で詩的な響きにあふれていて、胸打たれました。

「自分の心に問うて欲しい。
 自分は幸せだろうか?
 人生は冒険と喜びに満ちているだろうか?
 心は平和と愛で満たされているだろうか?
 もしそうでないなら、あなたにはビジョンが必要だ」

「多くの人が、金や権力に支配され、嫌いな仕事をしている。
 働けば名声や預金残高や立派な家が手に入ると信じて。
 好きになれない人生を送り、不機嫌な表情で仕事に向かう。
 家には急いで帰ってきてテレビを見る。
 毎日がその繰り返しで、心の中の絶望をごまかしていたのだ。」

「自然から採ったものは、全て命という贈り物だ。
 彼らは私たちのために、自分の命を諦めてくれたのだ。
 だから命を称え、感謝を込めて、誠実に生きなければならない。
 私たちが殺した命は、私たちの中で共にあるのだから。」

「狩りの獲物となった小さな鹿への思いを大切にしなさい。
 そして地面から引き抜いた草も同じように扱うのだ。
 その時、お前は初めて全ての存在と1つとなれるだろう。」

「ヒーラーへの道のりは困難な旅となるだろう。
 孤独な挑戦、痛み、自己犠牲に耐えなければならないのだ。
 そして一度決心したらもう後戻りはできない。
 自分のヴィジョンを生きないのは死んでいるのと同じだからだ。」

同氏は78年に「追跡者Tracker」を出版以来、「探索 Searcher」「探求 Quest」「旅 Journey(翻訳版は未発売)」「老賢者 Grandfather」などの多数の著書があり、本書は88年に出版された「啓示 Vision」の翻訳にあたります。
この分野に詳しい翻訳者が担当しているので、わかりやすく、丁寧な翻訳でした。
本書で語られるインディアンの教えは、世界中の伝統文化で伝えられる教えと共通のエッセンスを感じました。
著者と同様に白人でインディアンの後継者になったカルロス・カスタネダ、ロシアの隠者アナスタシア、中国の道家や気功家たち、チベットのシャーマン、英国の魔術師など。
ブラウン氏の著書を読むのは「Quest」に続いて二作目になりますが、心引かれるものがあり、他の著書も手に取ってみようと思います。