森の書庫

読んだ本のレビューを残しています。

身体症状に「宇宙の声」を聴く―癒しのプロセスワーク /アーノルド ミンデル

著者のアーノルド・ミンデル氏は米国で物理学と心理学を学び、シャーマニズムやタオイズムなどにも深く精通した人物のようです。
そしてミンデル氏は本書の中で、何らかの症状を持っている病者を出発点にして、人間を多面的に捉えるという新たな視座を提示しています。

 その世界観とは、シャーマニズムや宗教で古来より繰り返し語られてきたものです。
それは「この世界とはその背後にある世界の写し絵のようにして存在する幻想であり、背後の世界は自他の区別や数、時間が渾然一体として曖昧なものである」といったもの。
このことを示すために様々なトピックを挙げ、実践的な訓練法なども説明されていました。
これらの訓練を経て、読者が次のような認識を得ることを期待しているようでした。

・我々が現実と思っているのは実は幻想で、あらゆるものは多元的に存在している。
・全ての存在には沈黙の力による働きかけがあり、微かな気配として感じられる。
・真の実相では全てが曖昧で「個・時・所失し」の状態で存在している。
 よって人もモノもお互いに常に働きかけを行なっている。
 例えば探すことは探されことで、触れるのは触れられることである。
・この一連の気付きや悟りは東洋の十牛図に現れている。
などです。

本書ではその説明や用語の端々にカルロス・カスタネダの一連の著書からの引用が見られました。
またこの世界の相互作用や引性の説明で、「盲目の人が何かを探そうとした時に、それ以前に予兆として探すことを知っていたこと」、そして「探す対象から逆に探し出されたという感覚を持ったこと」などは印象に残っています。
また沈黙の力を実感するためのP298の図は確かに独特なインスピレーションを感じさせるもので驚きました。

本書は以上のような内容で、個人的に大変興味深く読めました。
翻訳も自然で、専門家が丁寧に訳していることが伺えて好感を持ちました。
ただそれでも内容は難解で、私には十分に消化できたとは言い難く、再読しながら理解を深めたいところです。
万人におススメできるものではありませんが、心理学やシャーマニズムカスタネダの著書などに興味のある人には読む価値があると思いました。