森の書庫

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魔法入門 /W・E・バトラー

著者はイギリス人のW.E.バトラー氏。
氏はイギリスで伝統的に伝わっている薔薇十字団やイスラエルの正統的な魔術を受け継ぎ、インドやカバラの技法も身につけて、新たな体系を構築した稀代の魔術師です。
本書は西洋世界の魔法とはどういうものか、そしてその世界に触れる方法の一端を紹介していました。

 魔法使いという言葉で想像するのは、ワンドを持ち、箒に乗って飛翔するハリーポッターのようなイメージを抱いていました。
しかし本書を読むと、その勘違いは見事に覆されました。
それによれば、魔法とは私達の意識の深奥にある「超越意識」にアクセスして、その世界に遥か古代から蓄積されている精神エネルギーを利用する技術のようです。
そのために必要なのが、意識をコントロールすること、また望む力に対応した曼荼羅や紋章などの象徴を利用することなどでした。

本書の中で次のような部分が印象に残りました。

・魔法とは意図したように意識を変容させる技術のこと。

・超越意識を通じて呼び込む力は、術者の精神に影響を及ぼす。
 そのため抑圧された感情があるなら、それを浮かび上がらせる。
 賢明な師なら抑圧は浄化・統合されて新しい力とする。
 だが失敗すると精神的に不安定な状態となってしまう。

・魔法世界に飛び込む前に、心の戒律を丁寧に扱う必要がある。
 それは潜在意識にある『観察する自己』で、これを欺くことはできない。
 戒律とは『私はこの世界と仲間に奉仕するために知りたい』という誓いだ。
 また、その「奉仕」とは2つの意味がある。
 魔術そのものによる奉仕と、魔法使いの人格がもたらす奉仕だ。
 人類は深遠で意識を共有しているので、人格は民族の集団意識全てに働くためだ。

・どのような魔法も自己の中から始まる、外からではない。

・世界中にあるオカルト各派は修行の助けとなる象徴を利用している。
 東洋の曼荼羅、西洋の生命の木などだ。

・修行の過程で準備ができると、必ずそれに見合う導師との縁が結ばれる。
 真の導師、優れた導師は自ら宣伝することは決してないが、出会いは叶う。
 しかし最後の導師、真の師は、自分の中にいる高次の【自分】だ。

・電気・磁気・光・熱と関係する「オド(気やアマとも呼ばれる)」という力がある。
 オドは結晶体の成長方向や化学変化の場で働き、生命に関わるもので、極性を持つ。

後書きにも書かれていましたが、本書で述べられている世界観は、日本の密教カタカムナ、中国の仙道、南米の呪術などと似ていました。
超越意識は仙道でいう虚空、南米のカスタネダが語るイーグルの力、カタカムナの潜象界などと同じもので、そこに至るための方法論の細部は異なっていますが、こうした技法は背景となる文化に依存している部分が大きいためだろうと思われます。

本書は入門というタイトルですが、専門的な分野にも踏み込んで書いているように感じました。
それでいてわかりやすく、詩的な言葉が使われるなど、一語一語に特別な思いを込めていることが伺える文章でした。
評者は西洋魔術の知識や経験が少ないため、本書の内容を十分に理解できませんでした。
それでも門外漢なりに接したこの世界の豊穣さは興味深く、この著者のシリーズを少し紐解いてみようと思います。