〈神道〉のこころ/葉室 頼昭
著者は形成外科医から宮司に転身を果たした特異な経歴を持つ方です。
生家である葉室家は藤原家の末裔にあたる伝統的な公家で、そのため著者は戦前の学習院に在籍していました。
その後は阪大医学部に進学して形成外科医になり、当時は日本に1人しかいなかったという形成外科医に師事して技術を学び、卓越した形成術をマスターしました。
しかしそれだけに飽き足らず東洋医学も学び、東西両医学を駆使しながら多くの患者を助けていました。
そして導かれるように神職へと転身して春日大社の宮司となり、2009年に帰幽されました。
本書はそうした著者の来歴と、その中で掴んだ宇宙論、医学、哲学などが語られていました。
内容は専門領域にも及んでいましたが、対話の形式でわかりやすくまとめられていました。
著者の博識ぶりと質問者のポイントを抑えた的確な問いかけが奏効していることが伺えました。
そして「神の導き」を信頼しながら、手術前に祈り、感謝し、自身の果たすべきことを淡々と行なってきた著者の半生には胸打たれました。
印象に残っている事柄を備忘録代わりに列挙します。
・患者さんの希望に答える為に、神様の助けを借りています。
手術室に入る前から祈りを行なって無我の手術を目指しています。
完全な無我は難しく、できたと思ったのは還暦過ぎて体力が無くなった時でした。
・手術後に鍼治療をすると傷の治りが全然違っています。
特に術後の浮腫みや腫れ、麻酔による嘔吐や痛みがほとんどなくなりました。
そのため手術直後から退院前で毎日鍼治療を行なっていました。
・「理屈に合わないことは存在しない」と信じている人は治りにくいものです。
頑張った体に感謝し、神様に任せた時に奇跡的な治癒が生じることがあります。
興味深い本で、少し時間をかけて読み返してみようと思います。