森の書庫

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奇蹟のドクター―世界的な治療家の記録/ E・G・フリッカー

稀代の英国ヒーラー

著者は20世紀のイギリスで活躍したヒーラーのE.G.フリッカー氏(Edward George Fricker:1910ー)です。
本書は同氏が綴った自伝の翻訳版で、82年に出版されました。

 


フリッカー氏は、ロンドンで印刷工を営む中流家庭の7番目の子供として生を受けました。
すくすくと育ちますが、5歳になった時に不思議な声を耳にしました。
声はフリッカー氏にしか聞こえず、警告や助言を与えてくれるのです。
しかし人生は安楽ではなく、大病を患ったり、様々な職業を経験しながらも平凡な家庭人として生きてきました。
転機は40歳を迎える頃に訪れました。
奇妙な声を聞き、空間に不思議な文字を見て、物が勝手に浮き上がったりしたのです。
声は自分が生前に医師だった霊だと告げ、「ヒーラーとなって病める人々を癒すように」と語りました。
フリッカー氏は逡巡しますが、結局はその不思議な声に従ってヒーラーへの道を歩みました。

彼の方法は体の力を抜き、霊の導きに従って患部に手を当てることです。
人は「魂」「肉体」「生命力」で成っていて、術者の手を通して生命力を補充するのだとしていました。
自分の手に負えないほど損傷がひどい場合は、霊によって損傷箇所がビジョンとして与えられたり、患部にピンポイントでエネルギーを送り込むこともあります。
医師の霊は一体ではなく、死後も人体の研究を続けた多くの霊がその成果を著者を通じて施しているとのことでした。
疾患は脊椎の損傷が多く、緑内障などの眼疾患、潰瘍などの内臓疾患や癌にも一定の効果がありました。
治療期間は一瞬〜1年くらいの幅があり、多くの患者は治癒し、死すべき運命にある人も安らかな死に誘導できるとしていました。
治療費は無料で、クリニックは裕福な患者の寄付によって運営されていました。
フリッカー氏は金銭に関して生涯無欲を貫いたようで、次のような言葉で戒めていました。

「貪欲は、この生での目的である精神の向上を妨げてしまう。
 少なく持つほど、シンプルであるほど、真の幸福を見つけやすくなる。
 幸せは、ありふれた日常の中にこそあるのだ。」

前半はこのように著書の来歴が紹介されていました。
後半では「声」との対話から得られた知見として、死後の世界のことや癌などの特別な病気のことが書かれていました。
魂の永続性と人生の目的、睡眠中に訪れる霊界への旅のことなどです。
ときに出会う治癒しにくいケースとして、次のように言及していました。

「癌は放射線や手術を受けていると、ヒーリングが効きにくいことが多い。
 組織が破壊されるので、生命力を保持する場所が失われているためだ。
 逆に組織が損傷しておらず死すべき運命でないのなら、治癒する可能性が大きい。」

終盤には、著者の長年の経験から得た気付きのようなものが述べられていました。

「もし神に祈るなら、願いは心を込めて、ただ一度だけにしなければならない。
 願った後は、一切を忘れてしまうのだ。
 神が聞き届けてくれたなら、いつか思いがけないときに願いは叶うだろう。」

「初めて治療をした頃、『声』は信仰について語ったことがある。
 患者に信仰は必要ないが、治療者は神の法に従うことが大切だ、と。
 私の治療は、自分の体を通じて神の力を患者に流し込むというものだ。
 神を信頼して身を委ね、患者に触れる前に『私はあなたを治すつもりだ』と宣言する。
 神への信仰を抱いて、患者にそう言わなければならないのだ。」

イギリスは文化的にヒーラーを受け入れやすいのか、力のある治療家が定期的に誕生しているようです。
本書はその一人であるフリッカー氏の治療風景が、生き生きと描かれていました。
30年以上前の本ですが現代でも陳腐になっておらず、読み応えがありました。
本書以外にも、英国人記者の目を通した語られる「癒しの声―E.G.フリッカー伝」も興味深いものでした。