森の書庫

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健康不安と過剰医療の時代 /井上 芳保

社会学から見た過剰医療

著者は社会学を専門とする研究者です。
本書は著者の専門とする社会学を切り口にしながら「過剰医療という問題」に切り込んだものです。


執筆者は医療に問題意識を持つ8名の論者たちで、それぞれ分担して執筆していました。
なお著者の井上氏は編者として交通整理をしながら、第6章を担当していました。
 1.「とりあえずCT」で世界一の診断被爆国となった日本 近藤 誠氏
 2.反対意見が黙殺されるフッ素の危険性 浜 六郎氏
 3.顧客を増やし続けてきた生活習慣病のレトリック 村岡 潔氏
 4.受けない人の方が長生きになる健康診断 松本光正氏
 5.患者を見捨てる医療ムラのオキテ 名取春彦氏
 6.精神医療が秘めた危険な権力性 井上芳保氏
 7.患者様に消費していただくための健康診断 梶原公子氏
 8.健康という幻想を追い求める人々 竹中 健氏

第五章の中で名取氏も指摘されていましたが、日本ではムラ社会という強固な利権構造があちこちにあり、権力に取り込まれた医療業界も強い結びつきを持っているようです。
内部批判が起こりにくく自浄作用が働きにくい医学ムラに対して、その辺縁や外側に立つ著者らは鋭く糾弾していました。

本書はこのように日本の過剰医療の問題を広く考察していました。

専門分野に及んでいるので堅苦しい内容を想像していたのですが、わかりやすく、熱が伝わるような文面に引き込まれました。
特に第五章を担当する名取氏の文章は熱い語りにユーモアを滲ませていて読み応えがありました。
過剰医療の問題は、原発を始めとする日本特有の課題を凝縮していると感じます。
空気のように当たり前に受け入れている事柄を見直す契機として本書は役立つでしょう。
社会学という切り口から眺めた医療の問題は想像以上に面白く、嬉しい誤算でした。