森の書庫

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救急・総合診療スキルアップ/山中 克郎

☆☆☆☆

総合診療のテキスト

著者は山中克郎氏、北啓一郎氏、藤田芳郎氏ら、総合診療・救急でキャリアを積んだ熟練の医師3名です。
本書はレジデント向けのスキルアップシリーズの1つで、実際の症例を元に総合診療について解説していました。

内容は40の症例で、一般外来や救急を含む様々なケースが紹介されていました。
初めに主訴、現病、既往、身体所見が示され、次に選択すべき検査を考えます。
検査は数値データ、CTやMRIなどの画像資料も示され、それらを元に確定診断に至ります。
難易度が★で説明されていて、次のようなものは特に難しく、印象に残りました。

症例6
急速に進行した息切れが主訴で、加えて両下腿浮腫、胸水、ALP上昇、肝腫大も判明しました。
心臓、肺、肝臓など多数の臓器の異常を思わせる症状でしたが、生検でアミロイドーシスと診断されました。

症例9
発熱、嘔吐、下痢が主訴で、さらに右上肢の軽度麻痺と皮疹も判明しました。
はじめ消化器系の疾患かと想像したら、のちに麻痺なども加わって見当もつかなかったのですが、感染性心内膜炎を原発とした血管塞栓でした。

症例15
息切れと倦怠感が主訴で、検査で胸部異常陰影、腎不全、下腿浮腫が判明しました。
これも各症状に関連が感じられず想像できなかったのですが、ウェゲナー肉芽腫という血管炎でした。

症例20
構音障害と嚥下障害が主訴で、検査で全身の筋肉が低下していることが判明しました。
はじめ脳血管障害を想像しましたが、重症筋無力症でした。

症例21
心下部痛が主訴で、検査で低カリウム、下腿浮腫、高血圧が判明しました。
心臓、腎臓の異常、甘草などによる偽アルドステロン症を想像したのですが、クッシング病でした。

症例26
嘔吐・下痢が主訴で、検査中に腹水、体毛減少、乏尿が判明しました。
はじめ消化器系疾患を想像したのですが、SLEでした。
抗核抗体の上昇とループス腎炎が診断の決め手になりました。

症例32
腰に力が入らなくなったことが主訴で、検査で糖尿病、白血球数の増加が判明しました。
発熱がなく、脳か腰の障害だと想像したのですが、糖尿病に隠された髄膜炎でした。

また巻末にはAppendixとして、60問の設問があり、知識のチェックができます。

本書はこのように必要十分な条件を元に、確定診断に至る流れがコンパクトにまとめられていました。
難易度の高い症例も含まれていましたが、総合診療の流れを学べる好著だと思います。