森の書庫

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好きになる解剖学 Part3 /竹内 修二

☆☆☆☆☆

痒いところに手が届く解剖テキスト

著者は解剖学が専門の研究者である竹内修二氏です。
本書は医療関係者や学生向けに解剖学を解説した入門書です。

「好きになる」シリーズは、医療系の専門家や学生向けに編集された入門書です。
解剖、生理から救急医学、漢方など様々な分野のものが刊行されています。
本書は「解剖学」をテーマとしたもので、全身の筋、骨、臓器などについてまとめていました。
第3巻となっていますが前著の延長にあるのではなく、それを下敷きに新たな知見を加えたものとなっていました。
分類は上肢、下肢、頭部、体幹に分けられ、それぞれ筋肉、骨、血管・神経系、臓器、感覚器などが紹介されていました。
解説はありきたりでなく、ユニークな切り口で周辺器官との関連なども言及するなど丁寧なものでした。
挿絵類も全カラーの写真とイラストで、透視や切開図を交えて立体的に内部構造が理解できるように工夫されていました。

近年は医療系のテキストが大きく進化し、わかりやすいものが増えたと感じています。
その中でも本書は出色のもので、先行文献を踏まえて改良していることが伺えました。
例えば臓器が重層的に折り重なっている場合は、透視図の他に側面図、背面図などが加えられ、名称は由来から語られていました。
神経や血管の走行も枝分かれなど、盲点になりやすい部分をピックアップされていました。
このように解剖上でちょっとわかりにくい部分、あれはどうだったかなといった死角になりそうな部分をすくい取っていたので知識を再確認するのに助かりました。
この本は今後も読み返すことになりそうです。
医療系学生や専門家にとって参考になる好著だと思います。
おすすめです。

精神科の薬がわかる本/ 姫井 昭男

☆☆☆☆

初学者向けの向精神薬テキスト

 
著者は精神科医の姫井昭男氏です。
本書は初学者向けにまとめられた向精神薬のテキストです。

姫井昭男氏は93年に大阪医大を卒業後、精神科医としてキャリアを重ねました。
2010年にPHメンタルクリニックを開業し、難治の患者やセカンドオピニオンなどにも対応しています。

本書は著者の長年の知見が結晶化したもので、精神薬を基本から解説したテキストです。
2008年に初版が出版されてから改訂を重ね、第4版まで続くロングセラーとなっています。
内容は抗うつ薬睡眠薬抗不安薬抗精神病薬、抗てんかん薬、認知症治療薬などです。
それぞれ症状、歴史、作用機序が説明され、薬剤の使用法についても著者の臨床経験を元に解説されていました。
安易に投薬することを戒め、後の減薬を含めた出口戦略など類書とは異なる独自の視点からも言及されていました。

本書はこのように精神薬について、わかりやすい言葉で綴られていました。
通読することで、精神科系の処方薬はほとんど理解できると思います。
専門家だけでなく一般の人が読んでも理解できるようにやさしく説明されている好著で、おすすめです。

救急・総合診療スキルアップ/山中 克郎

☆☆☆☆

総合診療のテキスト

著者は山中克郎氏、北啓一郎氏、藤田芳郎氏ら、総合診療・救急でキャリアを積んだ熟練の医師3名です。
本書はレジデント向けのスキルアップシリーズの1つで、実際の症例を元に総合診療について解説していました。

内容は40の症例で、一般外来や救急を含む様々なケースが紹介されていました。
初めに主訴、現病、既往、身体所見が示され、次に選択すべき検査を考えます。
検査は数値データ、CTやMRIなどの画像資料も示され、それらを元に確定診断に至ります。
難易度が★で説明されていて、次のようなものは特に難しく、印象に残りました。

症例6
急速に進行した息切れが主訴で、加えて両下腿浮腫、胸水、ALP上昇、肝腫大も判明しました。
心臓、肺、肝臓など多数の臓器の異常を思わせる症状でしたが、生検でアミロイドーシスと診断されました。

症例9
発熱、嘔吐、下痢が主訴で、さらに右上肢の軽度麻痺と皮疹も判明しました。
はじめ消化器系の疾患かと想像したら、のちに麻痺なども加わって見当もつかなかったのですが、感染性心内膜炎を原発とした血管塞栓でした。

症例15
息切れと倦怠感が主訴で、検査で胸部異常陰影、腎不全、下腿浮腫が判明しました。
これも各症状に関連が感じられず想像できなかったのですが、ウェゲナー肉芽腫という血管炎でした。

症例20
構音障害と嚥下障害が主訴で、検査で全身の筋肉が低下していることが判明しました。
はじめ脳血管障害を想像しましたが、重症筋無力症でした。

症例21
心下部痛が主訴で、検査で低カリウム、下腿浮腫、高血圧が判明しました。
心臓、腎臓の異常、甘草などによる偽アルドステロン症を想像したのですが、クッシング病でした。

症例26
嘔吐・下痢が主訴で、検査中に腹水、体毛減少、乏尿が判明しました。
はじめ消化器系疾患を想像したのですが、SLEでした。
抗核抗体の上昇とループス腎炎が診断の決め手になりました。

症例32
腰に力が入らなくなったことが主訴で、検査で糖尿病、白血球数の増加が判明しました。
発熱がなく、脳か腰の障害だと想像したのですが、糖尿病に隠された髄膜炎でした。

また巻末にはAppendixとして、60問の設問があり、知識のチェックができます。

本書はこのように必要十分な条件を元に、確定診断に至る流れがコンパクトにまとめられていました。
難易度の高い症例も含まれていましたが、総合診療の流れを学べる好著だと思います。

やさしくわかる看護ケアに役立つ画像の見かた/ 櫛橋民生 著

☆☆☆☆☆

看護師向け画像診断のテキスト

著者は櫛橋民生氏と藤澤英文氏の2人で、共に昭和大学横浜市北部病院放射線科に勤務する医師です。
本書は昭和大学が看護師向けに作成した「画像診断のテキスト」です。
X線、CT、MRI、超音波について、その原理と画像診断のコツがまとめられていました。

内容は全5章で、次のような概要となっていました。
 第1章 画像診断の基礎知識
 第2章 各部位ごとの画像
 第3章 体内埋め込み機器の読影
 第4章 PET/CT
 第5章 画像診断で用いる薬剤

本書ではまず第1章で基本的な機器のことを学びます。
異なるシステムで体内透視する機器の概要が丁寧にまとめられていました。
第2章では各部位ごとに、疾患と画像診断の具体的な見方が解説されていました。
例えば頭部だと頭部外傷・頭部出血などの疾患ごとに、読影法やCTとMRIの使い分けについて整理していました。
第3章以降では、ペースメーカーやカテーテルの使用などの診断以外の分野での画像診断の利用状況、PETを使った新しい画像診断機器、画像診断で使用する薬剤について説明していました。

本書はこのように画像診断機器の概要と読影について解説していました。
機器だけでなく病気やその背景となる解剖生理について述べていて、立体的に知識が学べるように工夫されていました。
画像はそれぞれ個性があり一朝一夕には理解できませんが、初めの一歩を踏み出すきっかけになると思います。
このタイプの本はいくつか読みましたが、本書はその中でも特に優れたものだと思いました。

癒しの医療 チベット医学―考え方と治し方 /タムディン・シザー ブラッドリー著

☆☆☆☆

チベット医学を概観する

著者は英国在住のチベット人女医タムディン・シザー・ブラッドリー氏(1964ー)です。
本書はチベット医学を初学者向けに解説したものです。

ブラッドリー女史は、チベット暴動後に両親が移り住んだ南インドで生を受けました。
82年からダラムサラチベット医学校で学び、ダライ・ラマの侍医クン・グルメイ・ニャロンシャー師の元で研鑽しました。
90年からは海外での活動を始め、英国人の伴侶と縁を持ったことを契機に英国に移住します。
そして同国で初めてのチベット医師として診療を開始し、現在も臨床とチベット医学の啓蒙活動に活躍しています。
本書はその一環として執筆されたもので、初学者向けにチベット医学の概要をわかりやすく解説されていました。

チベット医学はモンゴル、ブータンやインドなどに及ぶヒマラヤ山脈沿いの人々の間で伝承された民族医療です。
医学校メンチーカンを卒業したアムチと呼ばれるチベット医師が、村々を放浪しながらマンツーマンの医療を施してきました。
彼らは「四部医典」を聖典に据え、次のような独自の人体観で診断・治療にあたります。
人は真理を知らない「無明」ゆえに、本来持っていた精妙なバランスを欠いています。
無明とは、貪欲に求め続ける「貪」・妬みと怒りに飲まれる「瞋(じん)」、怠慢に溺れる「痴」に象徴されます。
その結果、人体を巡るルン、ティーパ、ペーケンという循環物質に不調和が生じて、病気となります。
診断は望診(舌診と尿診)、問診、触診(脈診)で行います。
不調和の調整は、生薬、鍼灸などの物療、食養生、精神の養生などを通じてなされます。
特に精神の養生では、仏教哲学を背景に積極的に推奨していました。
鍼灸では背部のツボに行う灸療法、頭頂部に金鍼を触れて行う鍼治療などが挙げられていました。
所々で実際の臨床の様子が引用されていて、チベット医学についてイメージしやすい構成となっていました。

本書の白眉はあとがきに添えられた「監訳者解説」にあり、監訳者自身の来し方とチベット医学への私的考察がまとめられていました。
監訳の井村宏次氏は鍼灸師で、ライフワークとして東洋医学を長年追い続けてきました。
しかし「チベット医学」は当時、資料も少なく、苦心していました。
2000年代に入るとようやく本書の原典「Principles of Tibetan Medicine」が出版され、チベット人でありながら英国に移住したブラッドリー女史の鮮やかな解説に引き込まれました。
そして出来上がったのが本書です。
東洋医学の専門家でチベット医学を追い続けてきたゆえにその分析は鋭く、実際の臨床で用いた応用例も披露されていて興味深いものでした。
チベット医学をわかりやすく伝えようという原作者と翻訳者の思いが感じられるような好著だと思います。

ブログ開設

はじめまして。
個人的に行ってきたブックレビューが溜まったのでここにアーカイブ代わりに保管することにしました。

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