森の書庫

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はじめてであう小児科の本 /山田 真

☆☆☆☆

子供の病気をわかりやすく解説

著者は開業医の山田真氏(1941ー)です。
本書は子供を持つ母親向けに編集された小児科のテキストです。

山田氏が医者になったのは68年です。
当時は大学闘争の時代で、著者は闘争で無期停学となり、卒業が遅れてしまいます。
しかし、その間は人生を貫く生きた哲学を打ち立てる、貴重な時となりました。
医学は権力のためでなく、人々のためにある。
だから自分は権威にあぐらをかかず、患者と共に喜び、歩む医者になろう、と。
その思いを胸に医学の道を歩むことを決意しました。
著者は卒後に小児科で研修を受けると、上野の路上生活者向けの診療所で働きました。
診療所が赤字で閉鎖が決まると、八王子中央診療所と梅村こども診療所に移り、家庭医として赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年代の患者、多くの疾患を治療してきました。

こうした経験が結晶化したのが本書になります。
原形となったのは、雑誌「母の友」の連載記事でした。
1978年に連載が始まり、84年、著者が40代の頃に初版が出版され、その後も改訂が繰り返されてロングセラーとなっています。
執筆の動機は、「医学の世界を一般の人にわかりやすく伝えたい」と思ったこと。
「医学は不完全で、わからないこともたくさんあることを知って欲しい」と思ったことです。
医者だけが知識を独占するのではなく、多くの人に知ってもらってどうすれば良いのかを一緒に考えて欲しいという願いが込められていました。

内容は4つのパートで構成されています。
第1部は感染症、アレルギー、心臓など、病気の概要についてまとめていました。
第2部は症状別に整理され、症状から関連する病気が推測できるようにしていました。
第3部は医学エッセイが中心で、薬害や医学界の問題点などについて著者の意見をまとめていました。
第4部は救急処置をまとめていて、呼吸や心臓が止まった時、毒物を誤って飲んでしまった時にどうすれば良いかなどを説明していました。

本書は、このように子供の疾患が幅広く掲載されていました。
内容は専門分野にも及んでいましたが、文章はやわらかく、穏やかなお医者さんが目の前で説明してくれているような言葉で綴られていました。
初版が出版されたのは、著者が40の頃。
多くの経験を積んで脂の乗り切った頃ですが、文章は誠実さと謙虚さに溢れたものでした。

「私はまだ勉強不足、半人前の医者です。
 でも患者さんたちと、喜んだり、怒ったり、泣いたりするのが嫌いではありません。
 これを唯一の取り柄として、これからも医者の道を歩み続けて行こうと思っています。」

地味な装丁ですが編集は丁寧で、編集者と共に大切に作った本だということが伺えました。
子供を持つ母だけでなく、専門家が読んでも参考になるものだと思います。
おすすめです。