森の書庫

読んだ本のレビューを残しています。

ひとりきりのとき人は愛することができる/ アントニー デ・メロ

自分の中にある幸せに気付くために

者のアントニー・デ・メロ氏(1931-87)は、キリスト教の司祭です。
本書は世界の本質と幸せについての著者の思いを、エッセイの形で示していました。

著者のメロ氏はインドのボンベイ(現ムンバイ)で生まれ、長じてイエスズ会で司祭になります。
しかしキリスト教に留まらずに、スペインで哲学、アメリカで心理学を学び、生まれ故郷のインドに帰国して東西哲学の統合を目指しました。
満を持して世に出てカウンセリング研究所を主催し、最期はニューヨークで客死(かくし)しました。

本書は「黙想」という名で31の項目がまとめられ、著者の考え方を述べていました。
その名のとおり、メロ氏が長年の思索でたどり着いた叡智の数々が披露されていました。
前書きでは同僚の司祭が寄稿していて、本書を「司祭の講釈」ではなく「神秘家の回想録」だと評し、親身な推薦の言葉を添えていました。
本編は初めに聖書の文言を引用し、そこから幸せや世界の本質について著者の考え方が述べられていました。
一見するとエッセイのように読めますが、奥深い思想の一端が示されていると感じました。

「人はコンピュータのように、外界の情報に自動的に反応しているに過ぎない。
 怒り、喜び、恐れ、不安、苦しみをもたらすのは、『誰か』でなく、『あなた』の心だ。
 外部の誰かに依存し、賞賛や成功を求め、軽蔑に怯えて奴隷のようにふるまっている。
 あなたの感情を観察し続けるなさい。
 そうすれば気付きへと至るから。」

現代社会は『不足ゆえに幸せになれない』という誤解を、人々に刻印している。
 カネ、権力、成功、同意、人望、愛、友情、神・・・。
 私たちはこれらのものに執着、依存して、エネルギーの大半を消耗している。
 常に不安で、時々スリルや快楽を得てもやがて倦怠に転じ、また不安に戻る。
 幸せになるには、ただ執着を捨てて『わたし』であればいいのだよ。
 そもそも幸せとは『外』ではなく、『あなたの内』に既にあるのだから。」

「『真理』にはひとりで歩いて、自分の力で到達しなければならない。
 1人きりの時、私たちは『沈黙』を見るのだ。
 見た瞬間から、本も、ガイドも、導師も、何もいらなくなる。
 この全くの孤独の中でだけ、依存と願望が消え、愛する能力が生まれる。
 するともう自分の渇望を満たす道具として、他人を見ることはない。」

「『愛』は分け隔てせず、報酬も求めず、存在自体が喜びなので自意識もない。
 そして自由だ。」

全部で180ページほどの薄い本ですが、重厚なテーマで読了まで時間がかかりました。
要約するのが難しく、実際に手にとってみないと本書の味わい深さはわからないと思います。
読み応えのある良本でした。